難しい科学や普段馴染みのない物理の法則を、とてつもなく大きな仕掛けで解り易く目で見て理解ができる。

大科学実験 discover science

『大科学実験』とは……

番組のジャンルを尋ねると、きっぱりと「理科教育番組である」と言う。ジャンルのキモはきちんと踏まえて踏み外してはいない……どころか、さらに教育的であるように、科学的マインドで満ちあふれるように、番組は作られているという。説明されて納得するのではなく、見て「なんなのか」「なぜなのか」を考えさせられるという意味で。でも、その一方で従来の教育番組のあり方を大きく逸脱している。当初、アル・ジャジーラに指摘された「正しいけれどつまらない」という問題。この番組はそこをいかに克服したのか。


——しかし不思議な番組ですね。実験レンジャーの存在といい、淡々とした細野晴臣さんのナレーションといい、妙におしゃれなビジュアルといい……。

大がかりなことをやっているからといって、その規模とか大変さを強調するようなナレーションを入れたくないし、かといって芸能人のリポーターを使いたくもなかったんです。というのは、この番組では実験が主役であって、実験を解説する人は主役ではないから。見ている子どもたちが自然と実験のテーマに集中できて、その面白さに自分で気づくことができるようにしたかったんです。なんとなく男性のおとなしいトーンで、オジサンぐらいの年齢の人にしゃべってもらいたいとは思っていましたが、細野さんのイメージがあったわけではないんですよ。

——だからナレーションも断片的に……。

本当はもっと極限まで少なくしてもいいかな。子どもたちが「なんでこの映像を見せられているんだろう?」「あ、旗が前から順番に上がっている」……「なるほど、音が届いたときに旗が上がるのか」とか、自分で知るぐらいに。 
  
巨大影3
——実験レンジャーという設定で“実験する人”の存在感を薄めているのも同じ狙いですか?

そうなんです。だって最初は黒の全身タイツでいいと思っていたぐらいですから。でもアル・ジャジーラさんにはすごく分厚いドレスコードの本があって……肌とか体のラインをあまり見せてはいけないんですね。それに従ったわけです。あと、番組を制作しているのがCMやプロモーションビデオを作っている会社で、デザインがすごく得意なんですね。いまみたいな色つきの実験レンジャーだったら、それぞれのレンジャーに個性を持たせ過ぎずにすみます。しかも画面も華やかになるから、見ている子どもたちに「あ、なんか楽しそう」って思ってもらうこともできると思って。

——CM制作会社が協力しているんですか……なるほど。だから従来の教育番組とはトーンが違うというか……。

そうですね。すごく大変でしたけどね。作り方がホントに違うので。最初は言葉が通じませんでした(笑)。彼らはワンカットワンカット丁寧に丁寧に撮っていきます。テレビだってもちろん丁寧に撮っていますけど、テンポがまるで違う。しかもドラマじゃなくって実験の番組なのに、ビデオエンジニアさんを使って画像の色を調整したりするんですね。この映像もどんなテイストで仕上げるか……シネ高速で止まるボール!?タッチにするとか青を足すとか、そういう作業を現場でやってしまうんですね。びっくりしました。 

 
——「高速で止まるボール!?」(※5)のとき、実験用のクルマが登場するガレージのシャッターに大科学実験のマークが入っていて笑いました。ここまで細部までこだわるのかと・・・。

NHKの番組制作では、ああいう発想は出てこないですね(笑)。

——実験のやり方にも、そのCM制作会社のスタッフ巨大テーブルクロス引き1がかかわっているんですか?

番組スタッフは実験チームと構成チームがあって、両者が話をしながら、実験と構成のやり方を詰めていっているんです。「りんごは止まりたくない!?」の実験ですごい失敗をしているんです。実験チームがお皿の重さとかテーブルクロスの滑りとかを計算にいれて速度と引っ張り方を決めていたんですが、デレクター巨大テーブルクロス引き2が「テーブル上に残った食器がニュートンの顔になるようにしたい」って、お皿とか増やしちゃったんです。その分の重さで、引っ張ったときロープが切れて鉄のパイプが折れ、反動でテーブルクロスが跳ね上がって……大惨事(笑)。 
   
 

——ケンカになったりしませんか(笑)。

デレクターと私っていうのは、いい緊張関係にありまして(笑)。『高速で止まるボール』の編集をしているときに、チラッと見たら「実験レンジャーの本部」がワンカット入っているんですよ。世田谷にNHKの技術研究所があるんですが、その建物を撮影して、そこにロゴマークの旗を合成して、レンジャーが出入りするシーンを編集している。それでうれしそうに「森さん、これ、レンジャーの本部!」と言うから、「イヤ~、本部は要らないんじゃない?」って切ったんですけど(笑)。で、その件をもう一人いるデレクターに話したら「僕のレンジャー本部のイメージは違うなぁ」って(笑)。ガウディの建築みたいな建物にちっちゃい窓がいっぱいついていて、煙とか小さな爆発があちこちで起きているんですって(笑)。それでも、レンジャーが「だいじょうぶ、だいじょうぶ~♪」って言っているらしいです。彼らはすぐに演出を加えてくるんです。実験レンジャーが小芝居していたりとか。私はあくまでも「これは理科教育番組なんだから!」って言って切っちゃう。「森さんの演出切り」って呼ばれているみたいです(笑)。まあそのバランスがうまくいっているんじゃないでしょうか。アル・ジャジーラさんの言う「NHKに足りないエンタテインメント性」がデレクターたちによって加味されて、でもそればっかりが走りすぎないように私が理科教育の重しとなる、みたいな。

——この番組を見る、実際の視聴者はどんな層ですか?

当初は10~12歳がターゲット層で、それ自体は変わらないんですけど、2歳のお子さんをお持ちの方が「うちの子好きなんです」って言ってくれたり、60歳の方からお便りいただいたり。ツイッターでも結構つぶやかれているみたいです。「贅沢だしラグジュアリーだし、NHKはこういうもののためにお金使わなきゃいけない」とか「この番組のためだけに受信料を払ってもいい」……ありがたいですね。「日本一バカな番組です」「イカレタ番組です」……誉め言葉だと思います。

——非常に贅沢だと思いますよ。ただ大がかりな実験をやってみせてくれるだけの番組なんて。

考えてほしいんですね。変な話、実験のことだけじゃなくてもいいんです。「なんでレンジャーはサングラスをしているんだろう」「なんで1.7㎞も使っているんだろう」でもいい。「あれ、ナレーション少ないよな?」でもいい。どこかに引っかかって、自分で考えて「そうか!」って思ってほしいんです。考えて、意味を自分でつかんでくれると、それは一生残っていきます。逆に「音の速さは秒速340mですよ。では見てください。これが音の速さです」って見せると、記憶すらしないと思います。

——この番組には、総勢何人のスタッフがかかわっていますか? 

いつも働いているスタッフは、16名ですね。で、実際に大実験やるときはさらにスタッフを2~3日前からかき集めて。レンジャーは“クジラ”のときで40名ぐらい、“音の速さ”で90名ぐらい。撮影の人たちにもあの衣装着せちゃうので、それも入れるとプラス10名ぐらいですか。これまでいろんな人にレンジャーになってもらっていますね。船の船頭さんとか競輪選手とか(笑)。

——彼らの背中のリュックには何が入ってるんですか?

普通におサイフとか構成表とか(笑)。みんないい感じに使っているようです。

——なんでリュックだったんですか?

あの円いマークを腰だけじゃなくて背中にもほしかったんですね。あのマークっていうのが、アンディ・ウォーホールとかが街に出てアートをやっていたころの運動を彷彿させるデザイン。実験室や机の上だけじゃなくて自分たちでやりたい実験をやりましょうということをなぞらえたマークで。あのリュック評判いいんですよ。売り出そうかなって思ったりなんかして。

——森さん自身、番組をやっていくうえで参考にしているものって何かありますか?

テレビとか雑誌とかそういうものはないです。ただいつも思っていることがあって。あたりまえのことをきちんとわかっておくこと。じゃないと「あ、これヘンだ!」っていうポイントがわからなくなる。興味を持ったことはきちんと意識すること。わかった気にならないこと。本に書いてあっても、「書いてあるから事実」だとはできるだけ思わないようにしています。知識で判断しすぎると “知ってる人の視点”にしか立てないですし。“知ってる人”に何か言われたときに、「なんで?」「それはホント?」って、一度そこから考えられるようにしておきたいと思っています。

——やってみなくちゃわからない……。

番組スタッフみんな言うんですよね。取材相手も言います。既存の知識を聞いてわかったつもりになるのではなく、自分の手を動かして自分の目で確認して「そうだったんだ」っていうことを確認する感覚を身につけておきたいし、子どもたちにもそうしてもらいたい。「結局、この番組のコンセプトはそうなんだよね」っていうことになって。たとえダーウィンが「人間はサルから進化した」って言っても、見た人は誰もいないんだし本当にそうなんでしょうかっていう気持ちを持ち続けながら、自分でちゃんと調べていこうと。私は毎回の結果が教科書通りじゃなくてもイイと思っているんです。この温度でこの風速で、この条件下ならこうなりました、というのがわかればいいかなって。おかげさまで、この9月からアル・ジャジーラ子どもチャンネルでも始まりますし、何カ国かで放送されるみたいですし……

——すばらしい! 大好評じゃないですか! して、続編は?

えー……。なんかねー、つかれたんで……(笑)。

——そんなこと言わないでくださいよ(笑)

面白いですけど、毎回胃は痛いですね。よかったねぇ、今回も誰も死ななくてって言ってますもん(笑)。





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番組data
番組名 大科学実験 discover science ジャンル その他
放送局 日本放送協会、アル・ジャジーラ子どもチャンネル(国際共同制作)
放送日時 毎週水曜 午後7時40分から7時50分
毎週金曜 午前10時45分から10時55分
番組URL  http://www.nhk.or.jp/daijikken/
           http://www.daikagaku.jp/ 
主なスタッフ 実験監修・NPO法人ガリレオ工房(瀧川洋二理事長)(敬称略)
総合演出 寺嶋章之(ビヨゴンピクチャーズ)
スタッフ数  16名(実験により100名ほどにもなる)
主な出演者 ナレーション・細野晴臣(敬称略)
放送開始日 2010年4月

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