
その年に話題となったアーティストが結集し、生放送で歌を届ける『紅白歌合戦』。時代の変化に応じてバラエティー色は薄まり、今、あらためて「歌番組」としての本質を見つめなおす。
─井上さんは、今年初めて『紅白歌合戦』のプロデューサーとして番組制作に携わるとか。
はい。これまでも白組チーフディレクター、美術進行、演出、制作デスクなどなど、13回ほど、いろいろな立場で紅白に携わってきました。歌番組の担当が多くこれまで、『ポップジャム』や『ふたりのビッグショー』『夢・音楽館』などを担当してきました。現在は、『タビうた』という番組に携わっています。
─今年は全指揮を執る立場になられましたが、この歴史ある番組の制作統括に任命された時にどう思われましたか?また、放送番組の枠を超えた大規模イベントでもある『紅白歌合戦』をどのようにしようと考えましたか?
なかなかできることではありませんから、ありがたいこ

とだと思っています。ただ、昨年まで3年間福岡に勤務していまして、東京に戻ってきてすぐのタイミングでくるとは思っていなかったので、ビックリしましたね。『紅白』はやはり規模が大きいですし、出演者からスタッフ、もちろん視聴者も含めて、ものすごい数の人たちが関わっている番組ですので、責任の大きさを感じます。出場者の発表前には、その予想が連日、新聞記事になるように、ひとつひとつが大きく取り沙汰されますし、自分だけでなくNHK全体の責任問題へと波及してしまう危険性もあるわけですから、通常の番組よりも緊張はします。しかし根本的には、私たちが制作して視聴者に送り届ける番組であることに変わりはありませんから、過度に特別視しているわけでもないんです。
─番組の規模が大きさからして事前に周到な準備をしなくてはいけないと思うのですが、実際に企画が動き出す時期は、いつぐらいからなのでしょうか?
だいたい夏くらいに核となるスタッフが召集され、そこでテーマやコンセプトなどの大枠を話し合います。具体的に動き始めるのは、10月すぎてから。出場者が決まらないと動けない部分も多いので、細かな演出は、事実上1ヶ月ほどで決めていますね。映画を一本撮るなら、それこそ何年もかけるでしょうし、ドラマもじっくり時間をかけなければなりません。でも、『紅白』は極端な話、50組前後のアーティストが会場にいるわけですからできてしまうんですよ。もちろん、そこに演出といった肉付けをしていくわけですし、60回やっているという積み重ねがあるからこそ、これだけ短い期間で準備できるわけですが。
─近年の『紅白歌合戦』について、どのようにお考えですか?
そもそも『紅白』は、いまだに演歌とJ-POPのアーティストが同じステージに立ち並ぶ、稀有な番組です。いろいろな嗜好を持つ幅広い年齢層の方々が、一緒になって見ることのできる番組であり、またそれを目指しています。特に第58回から今年までの3回にわたっては「歌力」をコンセプトに、『紅白』の根底にある「歌」でもって、たくさんの人たちを結び付けようとしてきました。プロデューサーに就くにあたって過去の放送を振り返ってみましたが、クオリティーは確実に上がってきていると感じています。相当前まで話を広げますと、テレビにおける歌の見せ方やあり方は、大きく変化してきています。昔、『8時だョ! 全員集合』では松田聖子さんや松本伊代さんなど、その時代のトップアイドルが出演して、コントをやったり歌を歌ったりしていましたよね? その流れを受け、『紅白』でもたくさんのバラエティーコーナーを設けていました。ベタなところでいうと、出演者の一部でラインダンスをしたり、タイツ姿になって踊ったり……極端な話、かつてはそれが『紅白』の目玉だったんですよ。ところが今の時代、トップアイドルやトップアーティストがそのような形でテレビ出演することはありませんよね。こちらとしても、バラエティー的な演出を求めるようなことがなくなり、『紅白』のあり方も変わっていきました。
─それで「歌の力」というテーマになるわけですね。
はい。58回は「歌の力、歌の絆」、59回は「歌の力、人の絆」、そして今年は「歌の力∞無限大」。歌本位の番組にしようという、3ヵ年計画の集大成の年となります。もちろん、歌の合間には今年話題の人物や話題を盛り込んだ企画があったりしますが、大掛かりなバラエティーコーナーや寸劇をやるようなことは、あまりないですね。一時期は、少し時代と乖離しても「紅白だから」と許されるところもあったと思うんですよ。でも今はそれじゃダメで、しっかりと時代を反映させた歌番組にしたいと考えています。